「ナースコールを渡してあるのに、必要なときに押してもらえない」という状況は、転倒や急変の発見遅れに直結する臨床課題です。原因は身体機能・認知機能・心理面・機器の適合と多岐にわたります。本記事では原因の見極めから対策の選び方、運用の見直しまでを整理します。
① ナースコールが押せない原因は4つの視点で見極める
身体機能・認知機能・心理面・機器の適合という異なる要因を切り分けることが対策の出発点になります。
② 押せないまま放置するリスクを把握できる
転倒発見の遅れ、排泄介助の遅延、急変時の初動遅れなど、具体的なリスクを理解できます。
③ 身体と認知に合わせた対策と運用の見直し方がわかる
機器の選択肢から声かけの工夫、導入判断や補助制度の確認まで、実務で使える手順を確認できます。
ナースコールが押せないときの対策は原因の見極めから始める
ナースコールが押せない状態には、いくつもの異なる要因が隠れています。身体機能・認知機能・心理面・機器の適合という4つの視点で切り分けると、対策の方向性が定まります。同じ「押せない」でも、握力が足りないのか、そもそも押す状況を認識できていないのか、遠慮しているのかで打ち手はまったく異なります。
身体機能の低下でナースコールが押せない
上肢の運動障害や握力低下があると、標準的な押しボタンを操作できないことがあります。脳卒中後の片麻痺、パーキンソン病による動作緩慢、関節リウマチによる手指変形、廃用による筋力低下などが背景にあります。麻痺側にコールを置いてしまい、非麻痺側で届かないというケースも現場で起こりがちです。
評価では、握力やMMT(徒手筋力テスト)だけでなく、実際にボタンへ手を伸ばして押し込む一連の動作を観察します。リーチ・把持・押下という動作連鎖のどこでつまずくかを見極めると、後述する機器選定の精度が上がります。
認知症やせん妄でナースコールを使えない
認知機能の低下があると、ナースコールという道具の意味や、押せば人が来るという因果関係を理解しづらくなります。せん妄状態では見当識が保てず、状況判断そのものが困難になります。MMSEやMoCA-Jなどのスクリーニングで全般的な認知機能を把握しつつ、実際に「困ったときに押す」という行動が成立するかを観察することが必要です。
半側空間無視があると、無視側に置かれたコールに気づけません。BIT(行動性無視検査)などの机上検査に加え、生活場面での気づきの偏りをCBS(Catherine Bergego Scale)で確認すると、コールの設置側を検討する材料になります。
遠慮や不安でナースコールを押せない
身体も認知も問題ないのに押せない場合、心理的なハードルが背景にあることが少なくありません。「忙しそうで申し訳ない」「こんなことで呼んではいけない」という遠慮、「押しても来てもらえないのでは」という不安です。特に高齢の方は、周囲への気兼ねから我慢して自力でトイレに向かい、転倒に至るケースがあります。
この場合、機器の変更よりも「押してよい場面」を具体的に共有することが有効です。遠慮の背景には過去に長く待たされた経験があることもあり、応答スピードの改善とセットで考えます。
ナースコールの位置や使い方が合っていない
身体・認知・心理に大きな問題がなくても、設置位置が不適切で押せないことがあります。ベッド柵に固定したコードが短く手が届かない、体位変換のたびにコードの下敷きになる、コールがシーツの間に埋もれるといった状況です。
臥位・座位・端座位など、その人が実際にとる姿勢ごとに手が届くかを確認します。使い方の説明が一度きりで、いざというときに操作を思い出せないというギャップも見落とせません。
- 実際の姿勢でボタンまで手が届き、押し込めるか
- 「困ったら押す」という行動が成立するか
- 無視側や見えにくい位置に置かれていないか
- 遠慮や不安で押すことをためらっていないか
ナースコールが押せないままにしておくリスク
原因の見極めが後回しになると、必要な呼び出しがされないまま事故に至るリスクが高まります。ナースコールが押せない状態は、単なる不便ではなく安全管理上の課題として捉える必要があります。
転倒や離床の発見が遅れやすい
呼び出しができないと、本人が自力で動こうとした際の転倒を早期に把握できません。特に夜間、トイレに行こうとして立ち上がり、ふらついて転倒しても、発見までに時間がかかります。発見の遅れは、骨折や頭部外傷の重症化につながりかねません。
排泄介助の遅れで失禁や不穏につながる
尿意・便意を伝えられないと、介助が間に合わず失禁に至ります。失禁は皮膚トラブルや尿路感染のリスクを高めるだけでなく、本人の自尊心を損ない、不穏や意欲低下の引き金にもなります。排泄の失敗を避けようと自力で動き、転倒に至る悪循環も生じます。
急変時の初動が遅れるおそれがある
胸痛、呼吸苦、意識レベルの変化などの急変時に呼び出しができないと、初動対応が遅れます。急変は発見からの時間経過が予後を左右する場面が多く、呼び出し手段の確保は安全管理の根幹です。押せない人には、後述するセンサーや見守り機器での補完を検討します。
本人の不安と職員の負担が大きくなる
「呼びたくても呼べない」状態は、本人に強い不安を与えます。一方、職員側も呼び出しがないことで頻回な巡視を強いられ、業務負担が増します。呼び出し手段が機能しない状況は、本人の安心と職員の負担軽減の両面で不利益をもたらします。
リハまる
MR技術
個別訓練に特化
MR(複合現実)技術を活用した3次元リハビリテーションシステム。現実空間にCGを重ねることで、日常生活に近い環境でのリハビリテーションを実現します。大学病院や急性期・回復期リハビリテーション病院を中心に、個別訓練に特化した詳細なデータ取得とフィードバックが特徴です。
| 対象施設 | 医療機関(大学病院・急性期病院・回復期リハビリテーション病院)、研究機関・教育機関 |
|---|---|
| 主な機能 | 医療機関をはじめとしたリハビリテーションでの活用、アイトラッキングをはじめとした様々な詳細データ取得 |
| 価格 | お問い合わせください |
- 酔いにくい:VR酔いの心配が少ないMR技術で、歩行を伴う課題も実施可能
- データ活用:アイトラッキング等で詳細なデータを記録・グラフ化
- 研究基盤:関西医科大学など大学との連携研究に基づく開発
重度の認知症でやる気をなくしていた患者様が、MR機器をつけてリハまるを始めると真剣にリハビリに取り組むようになりました。
リハビリテーション科医師 A様
紙と鉛筆で行う2次元空間のリハだといつも飽きてしまう患者様に、リハまるの3Dリハを試してみると、不思議なほど楽しまれるようになりました。
作業療法士 B様
MR機器は高齢者には難しいのではと思いましたが、実際にお使いいただくと皆様1回目から難なく使われています。患者様目線のシンプルな設計だと思います。
理学療法士 C様
リハビリは気が滅入ってしまうこともありますが、リハまるなら同じ内容でも毎回違う体験ができ、本当に没頭してしまいます。
利用者 D様
ナースコールが押せない人への対策は身体と認知に合わせて選ぶ
対策は、原因の見極めで得た情報をもとに、身体機能と認知機能の状態に合わせて選びます。機器の変更、入力方法の工夫、設置の見直し、声かけによる定着、見守り機器の併用という複数の選択肢を、本人の状態に応じて組み合わせます。
軽い力で押せるボタンや大型スイッチに替える
握力低下や手指の巧緻性低下がある場合、軽い力で反応する大型ボタンやパッドスイッチへの変更が有効です。標準ボタンは押下に一定の力が必要ですが、面積の広いスイッチなら、指先でなく手のひらや前腕でも操作できます。押す位置がずれても反応する余裕のある機器を選ぶと、動作のばらつきを吸収できます。
手足以外でも使える子機や入力方法を検討する
上肢がまったく使えない場合は、握るだけで反応するグリップ型、わずかな動きで作動するタッチセンサー、呼気や声で作動する入力方式など、手足の押下に頼らない選択肢を検討します。頸髄損傷や進行性の神経疾患では、残存する動きを起点に入力方法を組み立てます。本人が確実に再現できる随意運動を1つ見つけ、それに合わせて機器を選ぶ発想が重要です。
設置位置や固定方法を見直して届きやすくする
機器を替える前に、まず設置を見直します。非麻痺側や気づきやすい側に置く、姿勢が変わってもコードが下敷きにならない固定にする、寝返りで埋もれない位置にクリップで留めるといった調整です。半側空間無視がある場合は、探索を促す意味でも、あえて気づける側に設置します。小さな工夫で「届かない」問題が解消することは少なくありません。
繰り返しの説明や声かけで使う場面を定着させる
認知機能の低下や心理的な遠慮が背景にある場合、機器変更だけでは解決しません。「トイレに行きたくなったら押してください」と具体的な場面を提示し、繰り返し声かけします。押せたときにすぐ応答して肯定的に返すと、「押せば来てくれる」という体験が積み重なり、行動が定着しやすくなります。せん妄が改善すれば操作が可能になることもあり、時期を見て再評価します。
センサーや見守り機器を併用して呼び出しを補う
本人による能動的な呼び出しが困難な場合、離床センサーや体動を検知する見守り機器で補完します。ベッドから起き上がる動作、床に足をつける動作を検知して職員に通知する仕組みです。これらはあくまでナースコールの代替手段であり、本人の意思による呼び出し手段の確保を目指しつつ、それが難しい間の安全を担保する位置づけで併用します。
ナースコールが押せない人の対策は運用と再評価で見直す
機器を導入しても、運用が伴わなければ効果は限定的です。ケアの必要度の整理、機器の選び方、導入後の見直し、制度の活用という視点で、対策を運用に落とし込みます。また、ナースコールが押せない背景に半側空間無視や注意障害などがある場合は、呼び出し機器の調整だけでなく、認知機能や空間認知の評価もあわせて考えることが大切です。
ケアの必要度と観察頻度を先に整理する
まず、その人にどの程度の観察頻度が必要かを整理します。急変リスクが高い、転倒歴がある、排泄介助の緊急性が高いといった条件で、必要な見守りの密度は変わります。必要度を先に定めてから機器を選ぶと、過剰でも不足でもない体制を組めます。呼び出し手段と巡視の頻度をセットで設計します。
現場で使いやすい機器の選び方を確認する
機器選定では、本人の操作性だけでなく、職員が扱いやすいかも確認します。設置や着脱に手間がかからないか、誤作動が多くないか、既存のナースコールシステムと連携できるかを見ます。現場の運用実態を十分に把握しないまま導入が先行すると、使われないまま眠る機器になりかねません。可能であれば試用期間を設け、複数の職員が実際に触れて判断します。
- 本人の操作性を実動作で確認してから選ぶ
- 試用期間を設け複数職員で使用感を評価する
- 現場の運用を確認せず機器導入を先行させる
- 本人が再現できない操作を前提に選定する
導入後は本人の反応と評価結果を見直す
導入して終わりではなく、一定期間後に効果を確認します。本人が実際に呼び出せているか、誤作動で職員が振り回されていないか、負担が減ったかを評価します。うまくいかない場合は、失敗ではなく設定や機器の見直しのきっかけと捉えます。本人の状態は変化するため、身体機能や認知機能の変化に応じて呼び出し手段を再設計する姿勢が重要です。
この評価・再設計の場面では、客観データが役立ちます。MR(複合現実)技術を活用した3次元リハビリテーションシステム「リハまる」は、現実空間が見えたまま利用できる機器で、探索課題への取り組みや視線の動きをアイトラッキング付きの映像として記録できます。半側空間無視や注意障害の評価では、机上検査で見えにくい生活場面での気づきの偏りを可視化でき、コールの設置側や呼び出し行動の定着を検討する材料になります。特別なICT基盤がなくても、機器とノートパソコンがあれば短時間の準備で始められる点も、既存の体制のまま取り入れやすい特徴です。関西医科大学をはじめとする大学との連携研究を基盤に開発されており、こうした客観評価の裏づけとして活用できます。
補助金や助成制度の対象になるか確認する
見守り機器や介護テクノロジーの導入には、自治体や国の補助制度が使える場合があります。介護テクノロジー導入支援など、対象機器や補助率は制度・年度によって異なるため、導入前に自治体窓口で確認します。福祉用具として登録・認定された機器かどうかも、補助対象の判断材料になります。制度の要件は改定されるため、最新の情報を所管窓口で確認することをおすすめします。
よくある質問
Q握力が弱くてボタンが押せない人にはどんな対策がありますか
A軽い力で反応する大型ボタンやパッドスイッチへの変更が選択肢になります。手のひらや前腕でも操作でき、押す位置がずれても反応する機器なら、動作のばらつきを吸収しやすくなります。上肢が使えない場合は、握るだけで反応するグリップ型や、わずかな動きで作動するセンサーなど、押下に頼らない入力方法を検討します。
Q認知症でナースコールの使い方が理解できない場合はどうすればよいですか
A「トイレに行きたくなったら押す」のように具体的な場面を提示し、繰り返し声かけすることが有効です。押せたときにすぐ応答して肯定的に返すと、行動が定着しやすくなります。それでも能動的な呼び出しが難しい場合は、離床センサーなどの見守り機器で補完し、安全を担保します。せん妄が背景にある場合は、状態が改善すれば操作が可能になることもあるため、時期を見て再評価します。
Q遠慮してナースコールを押さない人への対応はありますか
A「押してよい場面」を具体的に伝え、遠慮を和らげることが第一です。遠慮の背景に過去の待たされた経験がある場合もあるため、応答スピードの改善とあわせて考えます。我慢して自力で動き転倒に至るリスクがあるため、心理面の要因を軽視せず、本人が安心して呼べる関係づくりを進めることが大切です。
まとめ
ナースコールが押せない状態は、身体機能・認知機能・心理面・機器の適合という4つの視点で原因を見極めることから始まります。原因に応じて機器変更・入力方法の工夫・設置見直し・声かけ・見守り機器の併用を組み合わせ、運用と導入判断まで含めて設計すると、本人の安心と職員の負担軽減の両立につながります。
✓ 「押せない」原因は身体・認知・心理・機器適合の4視点で切り分ける
✓ 放置すると転倒・排泄・急変の発見遅れという安全上のリスクが高まる
✓ 機器変更・設置見直し・声かけ・見守り機器を状態に応じて組み合わせる
✓ ケアの必要度を先に整理し、導入後の再評価と制度活用まで見据える
呼び出し行動の定着や、半側空間無視・注意障害の客観評価に課題を感じている場合は、視線や動作を記録できるMR/VRリハビリという選択肢もあります。臨床での活用に関心があれば、資料やデモを通じて具体的な使い方を確認してみてください。

